私はレーシングドライバーになる為に、大学時代は自動車工学を専攻しておりました。私の場合、すぐにレースを始められる環境には無かったので、少しでも自動車の知識を習得しておこうと考えたからです。
そこで、元自動車メーカーの開発部に勤務していた教授に直接教わるという幸運を得たわけですが、卒業研究のテーマは『自動車の走行モードとエネルギー消費に関する調査研究』ということで、自動車の燃費の研究をしておりました。
そこで学んだ知識や、自分の体験から得たエコドライブの知識を紹介させていただくことで、皆さんの燃費向上、地球環境保護に少しでも貢献できればと思います。
★発進時の注意点
・アクセルはゆっくりと踏み込む。
AT車でのエコドライブのコツは、発進時にいきなりアクセルを踏まずにクリープ現象をうまく利用することと、加速の際には低速ギヤの時にアクセルを踏み込み過ぎないことです。
クリープ現象を利用するのは、少し動いた状態から加速した方が、完全に止まった状態から加速するよりも遙かに加速しやすいからです。
レースのスタートをやっていると良くわかります。フライイングして、少し動いてからスタートしたマシンの前に出ることは非常に困難です。これは、自動車が動き出した瞬間から慣性力が働く為で、静止している自動車に比べ、遥かに動きやすくなっているからです。
同じ理由により、極力完全停止しないような運転を心掛けましょう。
また、AT車(トルコン式)の場合、いきなりアクセルを踏み込んでしまうと、いつまでたってもギヤが低速ギヤのままで回転だけあがってしまい、加速抵抗を増やしてしまいます。コツは、最初にほんの少しだけアクセルを踏み込んで、ギヤが変わったのを確認しつつ徐々に加速することです。
ギヤがなかなかシフトアップしてくれない場合は、ほんの少しアクセルを戻すことで変わるようになります。
アクセルの踏み方は、じわ〜っと踏んであげることです。急激に踏むとコンピュータが急加速と判断してしまいますので、燃料を一気にどっと噴射してしまいます。自動車は加速の時が一番燃料を消費します。周りに迷惑がかからない程度に、ゆっくり時間をかけて加速するというのを心がけるだけでも、燃費はかなり違ってきます。
・アクセルは極力全開にしない。
レースではコーナー以外ではアクセルを全開にします。レース中の70〜80%くらいは全開だと思います。軽自動車でパワーの無い車は上り坂などで全開にしないと登っていかない場合がありますが、普通車は一般道では全開加速は不要です。
★定速走行時の注意点
・無駄なアクセルのon,offをしない。
良く言われることですが、エコドライブではアクセルは極力一定に保ちます。一旦加速した状態を出来る限り一定に保つというのが、エコドライブの基本です。スピードコントロールを小刻みにアクセルのon,offでやっている方をたまに見かけます。スピードが出すぎたらアクセルを緩め、場合によってはブレーキを踏み、スピードが落ちすぎたらまたアクセルを踏む。これは非常にエネルギーロスの大きい乗り方です。
一旦加速した自動車は、慣性力によって少量のアクセルの踏み込みでも走り続けることができます。減速して、再び加速することを繰り返すと、この慣性力を有効に活用することができませんし、再加速の際に無駄な燃料を消費してしまいます。
・空気抵抗を極力受けない。
モータースポーツは200km/h以上の世界でのすで、空気抵抗をたくさん受け、ウイングなどでそれを利用して走っています。空気の力で路面にマシンを押し付けて、コーナリングの速度を高める為です。しかし、エコドライブでは空気抵抗は敵です。極力受けないようにしましょう。70km/hを超えると空気抵抗は速度の2乗に比例して大きくなってしまいます。空気抵抗を受けない為にも速度の出し過ぎには注意しましょう。
・車間距離を空ける。
レースでは常に接触するかしないかの接近戦です。
エコドライブでは、車間を空けることによって前車が減速した場合でも、無駄なブレーキを踏む必要が無い場合があります。ハイブリッドカーはブレーキを踏んだ際にエネルギーを回収し、それを蓄えることで燃費を出すことが出来ます。しかし、そうでない車はブレーキを踏んだ時にエネルギーを熱エネルギーとして放出してしまっているのです。ブレーキは熱交換器であり、この熱エネルギーは普通の自動車では残念ながら回収することが出来ません。よって、ブレーキを踏む=エネルギーを放出していると考えて下さい。
でも、言うまでもありませんが、危険が迫った時というのは躊躇無くブレーキを踏んで下さい。
★上り坂、下り坂での注意点
・上り坂について
上り坂ではスピードの落ちるのを見越して、上り始める手前からアクセルを踏み込むようにしましょう。その方が慣性力を有効に使えますし、スピードが落ちてきて上り坂の途中からアクセルを踏み込むよりも燃料の消費を抑えることができます。
それでも、急な勾配で速度が落ちてきたら、ギヤを一速落として走りましょう。ここでは速度が落ちすぎる前に、ギヤを落としてあげることが大切です。速度が落ちすぎてしまうと、ギヤを落としたとしてもアクセルをたくさん踏み込まなくてはなりません。AT車の場合ですと、オーバードライブをOFFにしたりするといいと思います。
上り坂では、慣性の力をうまく利用することと、最適なギヤを選択することで、燃料の消費を最低限に抑えましょう。
|
|
・下り坂について
下り坂ではエンジンブレーキを活用しましょう。これは、エンジンブレーキを使うことによって、燃料カット機能が働く為です。燃料カット機能は一般的な自動車でエンジン回転が1500rpm以上くらいで働くと言われており、この間はアイドリングの状態で走るよりも燃費が良いのです。よって、下り坂では上り坂で使ってしまった燃料を取り戻すつもりで、エンジンブレーキを有効に使いましょう。エンジンブレーキを使うことによって、フェード現象も起こりにくくなりますし、安全の面でも非常に有効です。
★減速時の注意点
・減速は早めに行い、エンジンブレーキを使う。
レースではブレーキは極力我慢してギリギリまで遅らせます。
エコドライブでは、赤信号や前車が停車する分かった地点でまずアクセルoffにしてエンジンブレーキを利かせます。これは、下り坂での注意点で述べた理由と同じです。アクセルを踏まずに惰性を利用しましょう。
※減速時にエンジンブレーキが利きすぎてしまった場合は、ギヤをニュートラルに入れてスピードをコントロールすることもできます。しかし、これは上級者のテクニックです。下り坂でニュートラルは危険ですし、平坦な道で運転に自信のある方は試してみて下さい。
★コーナーでの注意点
・ハンドルの切り方について
ハンドルを切っている時は極力アクセルを踏見込まないようにしましょう。
ハンドルを切っている時というのは、舵角抵抗が働いていて、アクセルを踏み込んでも直進状態の時のようにスムーズに加速してくれません。コーナリング中はアクセルoffかアクセルを一定に保ち、アクセルを踏み込むのは極力ハンドルが真っ直ぐになってからというのを心がけて下さい。
|
|
★停止時の注意点
・アイドリングストップについて
1分間以上停止することがわかっている時はエンジンを切るようにしましょう。
例えば、信号待ちで一番先頭にいる場合です。赤信号で一番初めに停止した場合は長い停止時間が予想されます。その場合はエンジンを停止しましょう。
1分間未満の場合だと、エンジンの始動時に濃い燃料が噴射されるので、逆に燃費を悪化させてしまいますし、そんなに頻繁にエンジンを停止させると、セルモーターへの負担にもなってしまいます。
一般的な乗用車では、10分間のアイドリングで、約130ccのガソリンを消費してしまいます。15km/l走る自動車だと、この燃料で約2kmも走行できてしまいます。
・停車時のギヤについて(AT車の場合)
AT車でアイドリングストップしない場合は、NまたはPレンジに入れておきましょう。
その方がトルコンの流体損失が少なく、僅かですが燃料の消費を抑えることができます。
★車両について
・タイヤの空気圧について
最低2ヶ月に一度はタイヤの空気圧をチェックするようにしましょう。(理想は一ヶ月に一回)タイヤの空気圧は、一ヶ月で約5〜10%も低下してしまいます。空気圧の低下は、転がり抵抗を増やしてしまいますし、ハイドロプレーン現象を起こしやすくなってしまいます。
・メンテナンスについて
オイル、エアクリーナー、プラグ等は燃費に影響するパーツです。プラグのチェックは車検時でもいいと思いますが、オイル、エアクリーナーであればチェックも比較的簡単です。自分でできない場合も、定期的にカー用品店やガソリンスタンドなどでチェックしてもらいましょう。
・余分な荷物は降ろして、極力車両を軽くする。
スキーのキャリアー等も夏季には外しておきましょう。これは、重量の軽減もそうですが、空気抵抗にもなってしまいます。
★その他の注意点
・時間を気にしないようにする。
当然ですが、レースでは時間を気にしない人はやっていけません。エコドライブをする上で一番大切なのは、ドライブする人の気持ちの余裕だと思います。気持ちの余裕を奪うのは、大抵の場合時間を気にする余裕の無さではないでしょうか?いつもより10分早めに出発することにより、気持ちに余裕ができます。余裕があれば他の急いでる人達にもやさしくできますし、ゆずる心も生まれてきます。ゆずることで、いい気分になり、その日がとても気持ちよく過ごせると思います。
・相手にブレーキを踏ませるような運転をしない。
→自分自身も流れに乗るために急加速を強いられる上に、相手にもブレーキを踏ませることで相手の燃費をも悪化させてしまいます。
(例) ・道路に合流する際に、後一台待てばゆっくりとした加速で合流できるのに強引に合流してしまう場合。
・片側2車線以上の道路で、周りの状況を確認しないで、後ろから車が来ているにもかかわらず車線を変更した場合。
ヨーロッパでこれをやると、どこまでも怒って付いて来られることがあるそうです。相手にブレーキを踏ませることは、相手の怒りも買いますし、お互いの燃費を悪化させることにもなります。+
・エアコンは極力我慢する。
エアコンが燃費に与える影響は無視できません。室内温度と外気温との差によりますが、エアコンのON,OFFで10%〜20%は燃費が違ってきます。エアコンONの場合でも、冷やし過ぎないようにしましょう。
★エコドライブのメリット
・エコドライブ→安全運転に繋がる。
エコドライブをすると、全ての操作がゆっくりとやさしい操作になります。急激な操作(急加速、急ブレーキ、急ハンドル)というのは危険を伴いますし、人間や地球環境に対しても良くありません。
自分の車の燃費だけでなく、車社会全体の燃費を考えて走行するような心の余裕を持って運転できる人が増えれば、本当に素晴らしいなぁと思います。
まとめ
とにかく、平均車速をあげるような運転を心がけることです。すなわち、停止回数を極力減らして運転することです。この停止回数というのは、完全停止だけでなく、例えば40km/h→20km/hのような減速も、停止回数0.5回としてカウントします。
そういった意識で運転すると、自然と平均車速が上がっていくと思います。小型乗用車においては、平均速度が10km/hから15km/hに上昇しただけで、燃料消費効率は約30%も改善されるとの報告もあります。低速での走行がいかに燃費が悪いかがわかります。一般的な自動車は60km/hくらいで走行するのが、最も効率が良いように設計されています。これより低すぎても前述のように燃費が悪いですし、高い場合では空気抵抗が増えてしまいます。
このように、エコドライブは結構奥が深いです。ですが、燃費が向上してくると記録にチャレンジしてみたくなり、運転が楽しくなってくると思います。皆さん、くれぐれも安全運転で、楽しみながらエコドライブにチャレンジしてみましょう!
|